【対談】昆虫が「食材」になる未来のために。僕らにできること。

【対談】昆虫が「食材」になる未来のために。僕らにできること。

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グリラスの歴史と未来を語るメディア「グリラスストーリーズ」

第2弾となる今回は、本社のある徳島県鳴門市を飛び出して、東京都日本橋の一角にあるお店へ。地球を愛し、地球を探究し続けるレストラン「ANTCICADA(アントシカダ)」を訪れました!

ANTCICADAのランチタイムの看板メニュー「コオロギラーメン」には、グリラスのファームで養殖したコオロギが、出汁や醤油、トッピングなどに使用されています。ANTCICADA代表の篠原祐太さんとグリラスCEO渡邉との交流のはじまりは、ANTCICADAもグリラスも立ち上がる前の2018年にまで遡るのだとか。

当時の話を振り返りながら、なごやかな雰囲気の中繰り広げられた本音のトーク。その合間には、コオロギを食卓に近いものとして生活に溶け込ませるための譲れない想いが垣間見える、熱い対談となりました。ぜひ、ご覧ください!

2020年6月4日(虫の日)に日本橋・馬喰町にオープン。日曜日に「コオロギラーメン」、金曜・土曜に「旬の虫を使ったコース料理」を提供中。開店後は、連日の満席で、ヒトサラによる「2020年 日本のベストシェフ&レストラン100」にも選出された。

写真右から
ANTCICADA代表 篠原祐太さん
1994年地球生まれ。慶應義塾大学卒。幼少期から自然を愛し、昆虫食歴は23年。2019年11月、株式会社Join Earthを設立、ANTCICADAの経営や商品開発に注力。狩猟免許や森林ガイド資格も保持。

株式会社グリラス代表 渡邉崇人
昆虫の発生·再生メカニズムが専門。コオロギの大規模生産、循環エコシステムの開発を行う。徳島大学大学院社会産業理工学研究部・助教

株式会社グリラス 西郷琢也
徳島大学卒。大手物流系企業を経て2020年9月にジョイン。営業及び商品開発、ロジスティクスを担当。

出会いはコオロギ×建築のイベント?!

ーよろしくお願いします!まずはじめに、お二人が出会った頃の話から伺いたいです。現在ANTCICADAさんには定期的にグリラスのコオロギを納品させていただいていますが、篠原さんとの交流はグリラス創業前から続いていると聞いています。(西郷)

渡邉:いまから約3年前の、2018年の4月頃でしょうか。僕が、東京の100BANCHで開かれた昆虫食のイベントに登壇したんです。コオロギが快適に過ごせる建築とはどのようなものなのか、そういう空間をどうやって作るか...。確か、そんなテーマのイベント。その時の会場で篠原さんにご挨拶させてもらったのが一番初めの出会いだったと思います。あの頃は、まだグリラスもなく、徳島大学内で小さくコオロギを育てているだけの状態でした。

ーそんなイベントが......。

篠原:たぶん、その前からお互いに知ってはいましたよね。広い界隈ではないので......。ANTCICADAももちろんまだ開店していなかったのですが、当時は個人でコオロギラーメンを中心に、昆虫料理の開発・提供に取り組んでいました。

食用とはいえペットの餌用などにもコオロギを卸している業者がほとんどだった中、「食材としてコオロギを作っていて、ブランドイメージのためにそれ(餌用を作ること)はしない!」と言い切る渡邉先生のプレゼンに、ひどく共感したんです。開発していたコオロギラーメンにぜひ使いたい!と思ったのが最初でした。

篠原:あの頃は「一食材としてコオロギを育てていく」というスタンスの会社は本当に少なくて。コオロギに特別に興味がある訳ではなく、ブームを見据えてやる。そういう感じで...。想いはどこからくるんだろう、と話していて疑問に感じるファームが少なくなかったんです。だから尚更、渡邉先生のお話にはぐっとくるものがありました。長い目でこれからのことを見据えて、ぜひ一緒にやっていきたいということ。今すぐでなくても5kg、10kg使えるコオロギがあったら嬉しいな、というお話をさせてもらった気がします。

渡邉:そうでしたね。ただ、その頃は僕自身も県職員の任期を終えて徳島大学に戻ってきたばかりできちんとしたファームも無く、安定した供給が難しいと判断して断念しました。

その年の冬、横浜で学会があったので、そのタイミングでまたお会いしてお話させてもらいましたよね。11月なのに篠原さんは半袖半ズボン。しかもテラス席だったから、店員さんがガンガン暖房を焚いてくれて。

篠原:よく覚えてますね(笑)。

渡邉:いやもう、クセがすごかったので(笑)。お互いの近況や、これからどういうスタンスでコオロギを盛り上げていきたいか、という話をさせてもらいながら、当時は徳島大学発ベンチャーとして会社を立ち上げようと動いているフェーズでもあったので。ここから、ぜひ篠原さんにコオロギを供給させてもらうか、という話になったんです。それが2018年末。

篠原:その後1月にコオロギのサンプルを送ってくれましたよね。ちょうどコオロギ醤油の試作段階で、いろいろなファームのコオロギを使い、農大の研究室で実験を重ねていました。送ってもらったフタホシコオロギの味が良く、実際にその後のコオロギラーメンのイベントで使わせて欲しいとお伝えさせていただいたんです。

渡邉:会社の立ち上げに奔走している時期で、きちんと供給体制が整っていた訳では無いので、一定量の納品のためにはコオロギを育てて溜める、という作業が必要でした。3月以降なら大丈夫だと思う、という回答をして。そうして、いつのまにか今日までお付き合いさせていただいています。

ーグリラスが2019年の5月にできて、きちんとしたファームが整うのがその年の8月頃ですよね。ANTCICADAがその後の2020年の6月4日、虫(64)の日にオープンで。

渡邉:だから、篠原さんへのコオロギの納品はそのもっと前から続いているんです。ファームができる前の、生産体制が追いつくかどうかのギリギリの状態の頃から納品していました。

篠原:日比谷音楽祭だとか、大きめのイベントでの出店時に使わせてもらっていました。

ーちなみに、今使っていただいているグリラスのコオロギって......どうですか?というのも、直接こうしてコメントをいただける機会はすごく貴重なので。

篠原:今は、フタホシコオロギとヨーロッパイエコオロギをブレンドして出汁をとっています。そして、フタホシコオロギは、グリラスで作っている目の白いコオロギと、太陽グリーンエナジーで作っている目の黒いコオロギ。2種類を混ぜて使っているのですが、それぞれに特徴があっておもしろいですね。目の白いコオロギの方は、マイルドで優しい感じ。グリラスのコオロギだけで出汁をとると、ガッとくるパンチが少し足りないような感じで、だからこそ混ぜて使うのがベストなんだと思います。

ー僕らも生産の過程で、目の黒いコオロギと白いコオロギの詳しい成分を分析したこともあるのですが、含んでいる油分の量以外に大きな差はなかったはず......。不思議なんですよね。

渡邉:なんでだろうね。太陽グリーンエナジーはグリラスが提供したノウハウでコオロギを作っているから、気温、湿度、掃除の頻度、餌まで全て一緒なのに。

篠原:あとは、大規模注文が現状ではどうしても難しいのは、少し歯痒いところです。コオロギ醤油は一度に沢山の量を仕込むので、数十キロ単位でコオロギが必要になるタイミングがありますから。

ー需要に対して供給が追いついていない、というのは今も抱える課題なので、これは僕らが頑張らなきゃいけないところですね。

未来を見据えた究極のマーケット

ーちなみに、そもそもコオロギラーメンの発売が始まったのっていつ頃なんですか?当時の世間の反応には、すごく興味があります。

篠原:最初に売り出したのが2015年の夏です。「凪」というラーメン屋さんのご協力のもと、2014年の冬頃から開発を始めてようやく完成したもの。発売当時は、何だか珍しいものがある、と話題になりました。

純粋に昆虫に興味があって、というよりは「試してみよう!」という好奇心でコオロギラーメンを食べにきてくださる方がほとんどだったと思います。やっていく中で徐々に、食としての「昆虫」に対する風向きが変わってきていることを感じていました。

ー無印良品がコオロギせんべいを販売した後で、そういった風向きの変化、昆虫食シーンの盛り上がりがあったと思うのですが、篠原さんご自身でその変化を感じることはありましたか?

篠原:そうですね、反響は大きかったです。昆虫食が世の中に広まっていく可能性を敏感にキャッチして、「早めにトライしてみたくて」と、昆虫を求めて訪れてくださるお客さんがあきらかに増えましたね。

世界のガストロノミーの中では、昆虫を料理のワンポイントに使うことがトレンドになってきています。本当の意味で純粋に「食」に興味のある人は、都内の食シーンも大体巡り尽くしてしまっている。ひさびさに新しい世界を開いてくれるお店ができた、というモチベーションできてくださる人も意外に多かったです。

そういう方は特に「昆虫」を特別なものではなく、ただ自らの味覚を広げてくれる一食材として見てくれるんですよね。僕らのスタンスにも近いから想いが伝わりやすいし、「コオロギが食材として面白い!」という訴求の仕方をしてくれる。

そうして広まった情報を見て、「食」にそこまで熱狂的で無い人も日曜日のコオロギラーメンの営業を入り口にANTCICADAに来てくれるようになったんです。その流れは3、4年前にはなかったものだと思います。

ーすごく良い循環ですね。

篠原:無印良品のコオロギせんべいは、「コオロギが食材になりうる」という前提の認知を大きな影響力をもって作ってくれたと思うんです。食品メーカーや飲食店など、それまでコオロギにある種の疑いの目を持っていた人の抵抗感が、あの商品のリリースを機にガラリと変わった気がします。

渡邉:コオロギに対して「絶対に無理」というネガティブ層がいたところから、そこまでの拒否感のない「なんとなくいける」層にゆるやかに変わっていったというか。

篠原:あのくらいの規模感の会社じゃないと、絶対にできない値段や出し方ですよね。非日常の一発ものから、食卓やスーパーに並びうる形で世に出している。あのせんべいが例えば1袋1,000円で売られていたら、全く話が違ってきてしまっていたと思うんです。

僕らの作っているコオロギラーメンは1杯1,000円で、トッピングも多いし、店舗の回転率もあまり良く無い。一般的なマーケットを考えると安すぎる価格設定です。ただ、店の周りに目を向けると、質の良い価格の安いラーメン屋さんが沢山ある。ここで僕らがコオロギラーメンを1,500円で売り出してしまうと、それはもう日常にある身近な食べ物としてのラーメンではなく、特別な嗜好品のようなものになってしまうと思う。

いちラーメン屋として店に来てくれる広がり方をしないと、本当の意味でコオロギを使っている意味がないですよね。僕らは、コオロギが物珍しいから使っている訳ではありません。昆虫が食卓に近い存在になる未来を見据えるために、多少無理をしてでも本当にそれでラーメン屋が成り立っていると示せるギリギリのラインで提供しています。だから、無印良品のコオロギせんべいの値段感にはすごく共感するところがあるんです。

渡邉:作り手側の事情どうこうではない、未来のための究極のマーケットですよね。無印良品さんとのやりとりの中でも、同じように感じるところがありました。

グリラスに期待すること

ーでは最後に、これからグリラスに生産者として期待することを教えてください!

篠原:そうですね......。コオロギを使う上での選択肢がもっと広がれば、とは強く思います。商品や料理を作っていく上で、究極的に大事なのが原料のクオリティー。餌によって味が異なるコオロギや、液体として使えるコオロギエキスなど、ベースとして選択肢が多くあるとアイデアも膨らみやすい、というのは事実です。その方が最終提供者として、色々な可能性を持ったコオロギを見せていける。グリラスさんと一緒にもっともっとコオロギの魅力を深掘りして、世の中に届けていけることを、期待しています。

もう一つはコオロギのアレルギー周り、安全性・安心性の話です。コオロギは甲殻アレルギーの人に反応が出てしまう場合があるので避けてもらっていますが、アレルギーがなくても、ANTCICADAのコースに来て体調を崩してしまう人がごく稀にいます。そもそも原因は虫じゃ無い可能性もあるけれど、その辺りをより明確にしたい。コオロギに関しての体系的なデータや知識をもっと厚くして、一緒に届けて行けたら、とは思いますね。

渡邉:コオロギだけ特徴的に出るアレルゲン物質があるのか、コオロギの何の成分がダメで、具体的にどうなるのかなど。機能性の話をすれば、これまでわかっていなかったプラスの面もあると思うんです。その辺りは、研究も担うアカデミックの中の企業として、エビデンス集めに取り組みたいと思っています。

篠原:オープンしてこれまで、昆虫食に興味のなかった人も沢山食べに来てくれるようになりました。コオロギが食材として食べられることも、養殖されていることも知らないお客さんも大勢。ラーメンを提供しながら、コオロギの飼育環境の説明をしたりしていますが、やっぱり「徳島大学」というネームバリューは、すごく大きい。

不安の大きそうな方には、まず初めに大学のことを話すようにしたり。情報も、話す順番に気を配っています。お客さんにとってはコオロギというだけでもハードルがある状態なので。アカデミア発というのは、お客さんにとっても大きな安心材料になっていると思います。

渡邉:もし今後ネガティブ要因が見つかったとしても、隠すのは絶対に良くない。現に、アレルギーが出てしまうことはもうわかっていますよね。きちんとお伝えした上で、じゃあどう解決していくのか。まずは原因を調べて解明するのが、我々の責務。育て方で避けられるのか、対処法はあるのか。その上で、アレルゲンを取り除くのか否か。そういう所にこれからアプローチしていければ、と思います!

ー味の方向性や種類の選択肢を増やす、広げる作業の一方で、アカデミックな研究から得られるお客様の精神的な安心安全にもこだわっていきたいですね。一歩立ち止まる工程も惜しまず、両輪で進めていこうと思います!篠原さん、本日はありがとうございました!

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