
- 食料問題・地球環境
- 2021.12.22
「食品ロス」とは? 問題点と削減に向けた日本の取り組み
日本人の多くは、数ある選択肢から好きな食品を選んで食べられる環境下で生活しています。でも、私たちが手に取らなかった食品は、どれだけ廃棄されているのかご存じでしょうか。そして、まだ食べられるのに廃棄される「食品ロス」が世界で深刻化していることをご存じでしょうか。今回は、食品ロスの原因や問題点、削減に向けた日本の取り組みについてご紹介します。
食品ロスとは?

食品ロスとは、まだ食べられるのに廃棄されてしまう食品のことです。飽食といわれる現代において食品ロスは、「食の不均衡」や「環境負荷」に及ぶ深刻な問題として、約30年前からメディアに取り上げられてきました。
一般的に食品ロスは「フードロス」と表記される場合がありますが、食品ロスとは解釈がやや異なっています。FAO(国際連合食糧農業機関)の公式サイトでは「Food Loss and Food Waste」と表記されており、「Food Loss」とは消費者に届く前に食品が廃棄されることで、「Food Waste」は期限切れや食べ残しによる廃棄のことです。
日本では、年間2,531万tの食品廃棄物が発生しており、このうちまだ食べられるのに廃棄される食品である「食品ロス」は、約600万tにものぼります。これは、世界中で飢餓で苦しむ人々を支援するための食料援助量の1.45倍以上にも相当する量で、日本国民一人当たりに換算すると「お茶碗約1杯分(約130g)」に相当します。
食品ロスはどこで発生しているの?
日本における食品ロスは発生源により、事業系(フードロス)と家庭系(フードウェイスト)の2つに分けられます。食品ロスといえば家庭系をイメージしがちですが、それ以上に事業系が多い傾向にあります。ここでは、事業系と家庭系それぞれの食品ロスが発生する過程について解説します。
事業でのロス

事業系の食品ロスは、飲食店で食べ残されたり、商品として消費者に提供する際のルールに沿わなかったりして大量に発生しています。また、「小麦のフスマ」など食品の加工過程で生まれる残渣も食品ロスとして廃棄されています。
1.出荷前に規格外の食品が廃棄されている
スーパーなどの小売店では、商品の形・サイズ・重さに対して高い品質基準を設けています。よって加工業者や生産者は、その規格に沿った食品や農産物を作ります。
しかし、味や栄養価に問題がなくても、見た目の悪い規格外の食品や農産物は廃棄されることになり、これが食品ロスとなってしまうのです。
ただし、規格外の商品を「見切り品」や「訳あり品」として、安い値段で売るスーパーもあります。
2.賞味期限の「3分の1ルール」で大量廃棄
小売店では、製造日から賞味期限までの期間の3分の1を過ぎた食品の納品を拒否できるという「3分の1ルール」の慣例により、食品が大量に廃棄されています。これは法律ではなく、食品メーカーと小売店との間に設けられた商習慣です。この慣例により、品質に問題がなくても陳列されることなく、消費者に届く前に廃棄されてしまいます。
3.大量・多種陳列による売れ残り

スーパーやコンビニなどでは、加工品や弁当類などが陳列棚にたくさん並んでいる状態を維持するため、多くの在庫を抱えます。
しかし販売期限内に売れなかった商品は廃棄され、陳列棚に並んでいた商品だけでなく、欠品させないために抱えていた同じ期限の在庫も一緒に廃棄されてしまいます。
4.製造過程でのロスや飲食店での食べ残し
食品製造時に出る食材の皮などを除去し廃棄することで、食品ロスが生まれます。また、飲食店において、客が食べ残した料理や作りすぎた料理はそのまま廃棄されます。
農林水産省が平成30年に行った調査では、外食産業の年間食品ロスは116万t、事業系食品ロスの36%を占めるという結果が出ています。事業系でのトータルの食品ロスは約55%を占めており、家庭の食品ロス以上に損失が多いため、社会課題となっているのです。
家庭でのロス

1.作りすぎによる食べ残し
食品ロスの約45%は家庭から出ているのをご存じですか。平成30年度の環境省調べによると、家庭から出される生ゴミの中には、食べ残しによる廃棄が約45%を占めています。
このような食品ロスの背景には、作りすぎによる食べ残しや好き嫌いによる食べ残し、その日の体調問題による食べ残しなどが考えられます。
2.使い切れずにそのまま廃棄
スーパーなどで夕方や夜の時間帯に行われるタイムセールや、キャンペーンによる値引きを理由に大量購入したものの、使い切れずに未開封のまま廃棄するケースも、食品ロスを生んでいる原因です。
お買い得とはいえ捨ててしまえば、お金も無駄になります。
3.野菜の皮や脂身など食べられる部分の過剰廃棄

家庭での調理の際、野菜の皮や肉の脂身など、工夫すれば食べられる部分が捨てられている過剰除去も、食品ロスを生んでいます。
これらの部分には栄養が豊富に含まれているものもあり、調理次第では美味しく食べられますが、多くの場合は廃棄されてしまいます。
食品ロスが問題視されている理由とは?
食品ロスは日本だけでなく、世界中で深刻化しています。食品ロスは、私たち人間一人一人が意識して取り組むべき世界共通の食の問題なのです。
この章では、食品ロスが世界で問題視されている理由を3つ挙げ、それぞれ解説します。
1.飢えに苦しむ「食の不均衡」

現在、世界の人口の約9人に1人は飢餓に苦しんでいると言われており、彼らへの食糧援助量は年間約390万tです。しかし、食料援助量の1.45倍以上もの量が日本では食品ロスとして廃棄されています。
後進国の飢餓と先進国の飽食は、世界に「食の不均衡」をもたらしています。今後は、世界規模の食料流通システムの発展および普及が目指されます。
2.環境への負荷

食品ロスは、地球温暖化を進行させる一因でもあります。廃棄された食品を焼却処理する際に排出される二酸化炭素(CO2)が、地球温暖化の要因となる温室効果を助長しているからです。
現在、食品ロスによって排出される温室効果ガスの排出量は、約36億tです。これは、世界全体で排出される温室効果ガスの約8%を占めています※。
※国連食糧農業機関(FAO)「世界の農林水産 2014年夏号(通巻835号)」
3.家計へのロスも大きい
一般家庭において食費は、家計の約4分の1を占めています。よって家庭における食品ロスは、お金を捨てることとほとんど同じです。
家庭における食品ロスは、一度に大量に作ってしまい多く食べ残したり、安売り時にまとめ買いしたものの食べ切れずに廃棄したりと、必要量を把握できていないことが原因です。食料の必要量を見直すことで、食品も無駄なく買うことができるでしょう。
食品ロス削減に向けた国の取り組み

世界的な環境問題や食糧問題を解決するためにも、世界各国では食品ロス対策を講じています。日本では令和3年に、持続可能な食料システムの構築を目指す「みどりの食料システム戦略」が策定されました。
この他にどのような取り組みをしているのか、紹介します。
1.食品リサイクル法
食品リサイクル法は、事業系の食品ロスの発生を抑え、減量化することを目的とした法律です。食品ロスを「食品循環資源」とし、製造・流通・外食などの食品関連業者から出る食品ロスを、飼料や肥料の原材料として再利用することを趣旨としています。
食品関連業者は毎年度、食品ロスの発生量や再利用の取り組み状況を国に報告しなければならず、食品ロスを多量に出している事業所に対しては、勧告・公表などが行われます。
2.食品ロス削減推進法
食品ロス削減推進法は、「おいしい食べ物を適量で残さず食べきる」ことを趣旨とした法律です。正式名称は「食品ロスの削減の推進に関する法律」と言い、食品ロス削減に対する国や地方自治体の責務を明らかにしつつ、食品ロス削減を国民運動として推進するために制定されました。
食品ロス削減推進法の基本的施策は、食品ロスの実態調査や先進的な取り組みの情報収集・提供です。また、スーパーなどにおいて食品ロスの対象となる商品の少量・ばら売り販売を推進するなど、食品関連事業者の取り組みも支援しています。
企業も食品ロス削減に向けて努力している

国だけでなく企業も食品ロス削減に向け、食品の寄贈や再利用など、さまざまな取り組みを行っています。食品ロス削減のために、企業ではどのような取り組みをしているのか紹介します。
企業各社で賞味期限を見直す動きがある
賞味期限表示の見直しや賞味期限の延長などの企業努力が各社で行われています。
賞味期限表示の見直しにより、消費者は食品を計画的に無駄なく買うことができます。賞味期限の延長は、食品の容器包装・製造段階の改善により実現可能となり、多くの企業が取り組んでいます。
これらの企業努力は、サプライチェーン全体の食品ロスを防ぐことができるだけでなく、物流の効率化にもつながります。
フードバンクへの寄贈を実施

フードバンクとは、企業などの食品ロスを施設や生活困窮世帯へ無償で提供する団体です。フードバンクシステムは世界的には普及していますが、日本では「食品ロス問題」や「貧困問題」の認識が十分でないことから、まだあまり認知されていません。しかし、フードバンクを通じて食品ロスを児童養護施設や母子支援施設などの福祉施設へ提供する企業も増えつつあります。
コンビニでは冷凍食品の取り扱いを充実

コンビニ大手3社は、本格的な食品ロス削減事業を始めています。
コンビニ各社はこれまでも、商品の需要を予測したり発注時間を調整したりし、売れ残りの削減に努めてきました。それに加えて消費期限の長い冷凍食品の取り扱いを増やし、家庭での食品ロスを防いでいます。
飼料として再利用する

Gryllus Inc - 株式会社グリラス
ようこそ、株式会社グリラスの公式ホームページへ。グリラスは徳島大学の基礎研究をベースに、コオロギの可能性を社会に実装していくことを目的として創業したフードテックベンチャーです。
食品ロスに取り組む企業の商品を買うことも支援の一つ

世界規模に発展している食品ロス問題は、消費者である私たち一人一人が意識し、取り組むべき問題です。そして食品ロス削減への取り組みをしている企業の製品を調べたり買ったりすることも、食品ロス削減の一つの支援となるでしょう。
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