
- 食料問題・地球環境
- 2021.12.22
今、フードテックが注目されているのには理由がある!
世界で食料不足や食品ロスなどが懸念されるなか、最先端のテクノロジーを利用して、食の持つ可能性を広げていく「フードテック」に注目が集まっています。日本政府も、フードテックを成長産業としてサポートしていくことを明らかにしました。今回はそんなフードテックの意義や領域、具体的な事例について詳しく解説します。
フードテック(Food Tech)とは?

フードテックとは、フード(Food)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、最先端のテクノロジーを駆使し、食の持つ可能性を広げていく新しい産業分野のことです。フードテックは、今後日本を支える成長産業になることが期待されています。
フードテックが注目される理由
それでは、なぜ「フードテック」が近年になって注目されるようになってきたのでしょうか。その理由を見ていきましょう。

1.世界的な食糧不足・栄養不足の回避
2050年には世界の総人口が現在よりも3割ほど増え、約100億人にまで達すると予測されており(※1)、食糧不足は避けられない問題になります。2019~2020年度における世界の食の市場規模では、穀物(主に小麦)の生産量だけでも、前年より0.4億t増加しています(※2)。世界の飲食料市場の規模は、2015年では890兆円でしたが、2030年には1,360兆円と1.5倍にまで成長すると予測されているのです(※3)。また、地球温暖化による気候変動で作物が採れなくなったり、干ばつや豪雨の影響で収穫量が減ったりすることが懸念されています。
フードテックの発展は、世界の食料不足・栄養不足の問題を解決する手段となり得るのです。
※1…国際連合広報センター 「世界人口推計2019年版」
※2…農林水産省「第3節世界の食料需給と食料安全保障の確立」P110
※3…農林水産政策研究所
2.飢餓と食品ロスの解決

食糧不足による飢餓に苦しむ人がいる一方で、先進国においては大量の食品ロスが発生しています。また、冷蔵・加工の技術が低いため食品ロスが発生している開発途上国もあります。現在世界人口の9人に1人が飢餓で苦しんでいるといわれていますが、3人に1人が栄養過多で太り気味であるともいわれているのです。このような「食の不均衡」は環境・経済に負荷をかけ、さまざまな領域に影響を及ぼします。世界的な食糧バランスを整えることが今後の重要な課題となるでしょう。
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3.菜食主義向けのタンパク質補助

世界には、宗教的な問題や動物愛護の観点、健康への配慮など、さまざまな理由から菜食主義志向の人が多く存在しています。しかしこのようなライフスタイルの人たちも、生きていく上でタンパク質は必要不可欠な栄養素です。そこで、フードテックによる本物の肉や魚に代わる植物由来の肉(代替肉)の生産が求められています。
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4.食の安全性の向上
消費者にとって「食の安全性」は、健康上重要な関心事です。多くの消費者が食品を購入する際、食の安全性を産地・コストに次ぎ3番目に高く意識しており、味よりも優先させているのです※。
フードテックは、食品の傷みを診たり傷みにくい食品を製造したりすることで食中毒を防ぐので、食の安全性を守ります。また、安全に長期保存ができる梱包材料などの開発も可能とするので、異物混入などの事故を防ぎます。食の品質の透明化を図り、安全性を明白にするフードテックは、消費者への安心・安全への意識につながっています。
※欧州食品安全機関(ESFA)の調査
5.生産者・労働者不足解消

国内の第一次産業(農業・漁業・林業)や食品製造業では常に人材が不足しており、少子化による後継者不足も人材不足に拍車をかけています。さらに労働人口の減少に伴い外食産業も人材が不足しつつあり、豊かな食の保持・提供が危ぶまれています。
そこで、フードテックによるロボットやAIの開発で、生産・労働の省力化や無人化を図り、人材不足を解決することが求められています。フードテックは食そのものではなく、食の製造・流通などの領域にも及んでいます。
フードテックで注目の最新テクノロジーとは?

1.代替食品の開発
植物性の代替肉や昆虫食などは、ベジタリアンや健康志向の人々の代用食のほか、将来的に生産が難しくなると考えられている肉の代用にもなるという見方があります。
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代替肉・培養肉
家畜の生産では、地球環境に与える大きな負荷が問題となっています。また、世界の人口増加に伴いこのまま食肉の需要が拡大すると、供給が追い付かなくなる可能性が高くなります。そこで今、サスティナブルな食材として「代替肉」が注目されています。動物性の原料を一切使用せず、植物由来の成分のみで作られる「大豆ミート」や「グルテンミート」などの代替肉は実際の肉の食感や味に近く、さまざまな料理に生かすことができる食品としてすでに流通しています。
代替肉の一つで、動植物の可食部細胞の培養して作る肉を「培養肉」といいます。2013年にオランダで開発された「培養ミンチ肉」を使ったハンバーガーは1つ約3,000万円という非常に高価なものでした。現在はコストダウンに向けて開発を続けており、2021年9月にはハリウッド俳優レオナルド・ディカプリオ氏が出資。流通に向けての開発はこれからですが、国内でも培養ステーキ肉の開発を目指しており、食の新分野における前人未到のチャレンジとして研究が進められています。
昆虫食
肉や魚の代替品として、今、昆虫が注目されています。昆虫は栄養価が高く環境への負荷も軽いため、食糧難を救う未来食として期待が寄せられているのです。昆虫を食すことが慣習となっている国も多く、日本でも昆虫を使った商品開発やレシピの研究が進められています。実際に食べてみると「意外に美味しい」と好評で、最近はスーパーなどで販売されているものもあります。
昆虫食に用いられる虫の中でも特にコオロギは、栄養・美味しさともに優れており、飼育時における環境負荷も軽減できることから、近年注目を浴びています。コオロギを使ったクッキーやカレーなども加工販売されており、コオロギの香ばしい風味でさらに美味しさがプラスされています。
「食用のコオロギの生産や普及推進など」に取り組む、株式会社グラリスのホームページはこちら↓
Gryllus Inc - 株式会社グリラス
ようこそ、株式会社グリラスの公式ホームページへ。グリラスは徳島大学の基礎研究をベースに、コオロギの可能性を社会に実装していくことを目的として創業したフードテックベンチャーです。
代替卵
意外と知られていませんが、実は日本は世界で2番目に卵の消費が多い国です。しかし、卵も環境負荷が非常に重い食品です。そこで今、代替卵が注目されています。代替卵は、味・栄養・食感共に本物の卵と遜色なく、卵アレルギーの人でも安心して食べられる卵で、さまざまな卵料理に活用できます。
緑豆を細かく砕き粉末にして疑似卵を再現したものもありますが、2021年にはキューピーから大豆を使った代替卵のスクランブルエッグが登場しました。
2.陸上養殖
人工的に創設した環境下で魚を養殖する技術「陸上養殖」の開発が進んでいます。陸上養殖のメリットは、省力化と生産性の向上、魚種にかかわらず養殖できる点です。陸上養殖はフードテックで注目されている分野の一つです。
3.垂直農業や店舗栽培

高い建物のフロアや狭い敷地、使われなくなった倉庫などの都市環境を有効利用し、野菜を栽培する屋内垂直農業や、スーパーなどの店舗で野菜を栽培しそのまま販売するという取り組みが始まっています。これらの取り組みは、輸送や在庫にかかるコストを削減するほか、気象に左右されずいつでも新鮮な野菜を安定供給できるメリットがあります。また、必要な量だけ収穫できるので、食品ロス防止にもつながるとして注目されています。
食品の品質保持技術
最近、食品の賞味期限が長くなっている傾向にありますが、それは長期保存のテクノロジーの進展によるものです。食べ物が劣化する要因は大きく分けて3つあり、①微生物による腐敗・汚染、②酸素・光などによる化学変化、③熱・乾燥・吸湿による物理変化です。これらの要因を防ぐ製品が各社から出ています。
さらに冷凍技術を活用して食品ロスを抑える手段を、「フローズンエコノミー」として捉え直す動きも始まっており、食品の品質保持技術は進化し続けています。
グリラスでも冷凍技術を活用した商品を販売しています。
「フローズンエコノミー」としておすすめの商品はこちら↓
C. TRIA(シートリア) ブレッド
冷凍で長期保存が可能なので、いつでもパン屋さんの味をそのまま味わうことができます。カイザーロール・大豆紛ロール・高菜フランス・ごぼうフランス・くるみチーズ・こしあんフランスの6種類があります。
5.調理ロボットやICTの活用
国内で深刻化する外食産業の人手不足を解消するために、調理ロボットの開発も進んでいます。また、身近なところでは、飲食店へ事前注文することで需要量を予め推測し、食品ロスのリスクを軽減できるといった技術ICT(Information and Communication Technology)などがあります。調理ロボットやICTの活用は、人件費などの削減にもつながります。
フードテックを通じた社会課題への挑戦は続く

SDGsとの繋がりが強いフードテック。日本の食産業を成長させる新たな分野として発展が期待されると共に、経済・環境・労働などさまざまな領域の問題解決に貢献するでしょう。さまざまな環境問題に打ち勝つ挑戦は、これからも世界規模で続いていきます。今後の動向に注目です。