
- 食料問題・地球環境
- 2021.12.22
タンパク質危機って? 世界的なタンパク質不足の乗り越え方
現在世界人口は増加し続けており、2050年には約100億人に達するといわれています。そんななか問題視されているのが、タンパク質の需要と供給のバランスが2025〜30年頃に崩れ始めると予測されていることです。この難題を乗り越える方法はどこにあるのでしょうか。タンパク質危機の状況と、課題解決の選択肢を見ていきましょう。
タンパク質危機とは?

全世界の人口は現在約78億人ですが、2050年には約100億人に達するといわれています。経済が豊かになると人類は次第に肉食化する傾向があるといわれており、これに伴い家畜の増産が求められることが予想されます。家畜を増産するには、家畜のエサとなる穀物も増産しなければなりません。穀物の増産には広大な土地が必要となり、環境負荷などの問題も浮上します。西洋的な肉食を中心としたタンパク質の供給では、増える人口を支えられなくなる恐れがあるのです。
1日に必要なタンパク質は、体重の1/1,000といわれています。一人当たりの体重を50kgと仮定した場合、2050年には年間約1.8億t(1日あたり50万t)のタンパク質の供給が必要になります。これは、2005年時のタンパク質の供給量の約2倍です。
現在の農業・畜産業の在り方のままタンパク質を含む肉の生産を増やすには限界があり、環境保全の問題も深刻化します。早ければ2025〜30年頃には需要が供給を上回り始めると予測されています。これを「タンパク質危機」と呼びます。
現在主要なタンパク質である肉・魚・大豆。将来どうなるの?

1.<肉>土地資源が追いつかなくなる
これまでは、食肉を増産することでタンパク質の需要を賄ってきました。しかし現在の畜産方法でこれまで以上に食肉を増産するとなると、家畜飼料の確保のため大量の穀物が必要となります。さらには、農地の拡大による森林破壊や土地資源の不足などの問題が表面化し、畜産業は限界を迎えます。
また、家畜から発生するメタンガス・温室効果ガスは、全体の発生量の16%をも占めるといわれており※、地球温暖化の進行を早める原因にもなります。このままでは持続可能な食生活のスタイルを構築することは難しく、際限なく食肉を増産することは、地球の持続性の観点からすると、限りなく不可能に近いことなのです。
※「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」
2.<魚>養殖の生産スピードは衰えていく可能性が
世界の食用魚介類の一人当たりの消費量は、世界の全ての地域で増加しています。なかでもアジア地域での伸びが顕著で、世界の一人当たりの消費量は50年間で約2倍に増加しました。人口増加による世界の食用魚介類の消費総量は5倍にも及んでいます※。
世界の漁業生産量は1980年代後半以降、伸び悩んでいます。世界人口の増加に伴い、今後も食用魚介類の需要は拡大することが予測されますが、養殖業は養殖適地・水資源(淡水養殖に関係)・餌料価格の上昇といった制限があることから、今後生産のスピードが衰えていく可能性があります。よって、食用魚介類の世界的な供給ひっ迫や価格上昇を招く恐れもあり、近い将来魚介類は、手に入りにくい食材になるかもしれないのです。
※国際連合食糧農業機関(FAO)「食用魚介類の国内供給量」
3.<大豆>これ以上の増産は難しい

「畑の肉」とも言われる大豆は生産量の増加が続いていますが、その増加は栽培面積の拡大に依存しています。近年では南米での大豆生産量が激増していますが、これには熱帯雨林を切り開いて大豆畑を拡大したことが背景にあります。
大豆生産国第1位であるブラジルが行った調査では、過去1年間に約8,000平方kmもの森林が消失したという結果が出ています。また、その消失速度は過去5年に比べ約30%も加速していることが分かりました。短期間で広範囲の熱帯雨林が失われていることが明らかとなったのです。
現在も大豆の生産拡大による熱帯雨林の消失が進んでいますが、これ以上の増産は困難な状況にあります。
タンパク質危機を乗り越える手段が必要
以上から、現在の方法で世界の全人口に不足なくタンパク質を供給することは、不可能であると考えられます。世界では現在、現状の方法に因らないタンパク質危機を乗り越える方法を模索しています。
タンパク質危機の解決策とは?
1.動物性タンパク質の生産効率化

牛や豚は飼料変換効率が低いことから、このままではタンパク質の供給が間に合わなくなるといわれています。この問題を解決するため、現在飼料変換効率のよい動物性タンパク質の開発が加速しています。
例えば、土地も飼料もほとんど必要のない新たなタンパク質源として注目されているのが「培養肉」です。培養肉は未だ研究段階で、普及にはあと5~10年かかるといわれています。
そんななか注目を集めているのが「昆虫食」。日本では近現代にかけて衰退してしまった食文化ですが、昆虫は栄養が豊富で味も良く、飼育時の環境負荷も畜産よりもはるかに低くなります。持続可能な地球を支える未来食として、期待が寄せられているのです。
牛と比較して、昆虫は温室効果ガス削減率28倍!

昆虫は他の家畜と比べ、1kgのタンパク質を生産するのに必要な餌や水の量が圧倒的に少ないため、限りある資源を有効に活用することができます。また、一定の環境条件が揃えば場所を問わずどこでも生産することができ、大規模な土地を必要としません。新たに土地を切り開かずとも、既存の建物や遊休地などで飼育できます。

さらに地球温暖化の一因とも言われる畜産由来の温室効果ガスについても昆虫の排出量は少なく、牛や豚などに比べると温室効果ガスの削減率はなんと28倍。昆虫は家畜に比べ、環境への負荷も圧倒的に低いのです。
環境・経済の両面でメリットがあり、栄養素を効率良く摂取できる昆虫は、持続可能な食生活のスタイルの構築に適した食品になると言えるでしょう。今後昆虫食の市場は活性化し、需要が拡大していくといわれています。
循環型食品ブランド「C. TRIA(シートリア)」
コオロギは雑食性のため、飼育時は特定のエサだけを与える必要はありません。世界中で発生している食品ロスをエサにして飼育することも可能です。
「C. TRIA」は、食品ロスからコオロギを育て、新たなタンパク質を生み出す循環型食品「サーキュラーフード」をテーマとして特化したブランドです。「C. TRIA カレー」の具材の肉は大豆ミート、スープには粉末化したコオロギの「グリラスパウダー」を使っており、環境保護への思いを詰めた商品となっています。
サーキュラーフードについて詳しくご紹介しています↓

サーキュラーフードが救う、他人事じゃない食品ロス問題と私たちの健全な生活
農林水産省のデータによると、日本の食品ロスは年間570万tにも及ぶといいます(取材当時)。本来、食べられるはずなのに捨てられているたくさんの食品たち。…
2.植物性タンパク質による代替

植物由来のタンパク質から、動物性タンパク質に似た食感・味・栄養素を作り出し、代替させていく取り組みも行われています。身近なものでは、豆腐から作られたハンバーグのパテなどがあり、これらの代替肉はタンパク質危機の救世主として開発が進んでいます。その他にも、大豆や小麦、トウモロコシを原料とし、魚の味や食感を再現した代替魚や、緑豆を細かく砕いて粉末にし卵を再現した代替卵、豆乳やナッツ類など植物性のミルクから作った代替ミルクなどがあります。
現在多く出回っている代替肉の原料は、さまざまな料理に活かすことができる「大豆ミート」です。しかし大豆は先に述べた通り増産が困難な食材なので、今後は製造にあたり需要や価格などの問題が浮上する可能性があります。
3.植物性タンパク質源の拡大
このような中注目されているのが、藻類です。藻類はタンパク質の生産性が高いため、近年食利用への動きが高まっています。
藻類は、大豆の約15倍のタンパク質生産能力を持ち、生産に必要な面積は大豆の30分の1、水量は4分の1で済みます。圧倒的な省資源で作ることができるので環境への負荷も非常に低く、それでいて大量に作ることができる藻類は、食の可能性を広げる食材となるでしょう。
アメリカでは、すでに藻の穀物化が始まっています。加工された藻の粉は小麦粉のように扱うことができるため、パンなど普段の食事に取り入れやすいことから、近い将来日本でも身近な食材になるかもしれません。
私たちの選択から新しい食生活が始まっていく

私たちの生命にも直結する食の問題は、近い将来表面化するでしょう。タンパク質危機は避けられない課題であり、解決のためには畜産以外の方法でタンパク質を生み出し、普及させていくことが求められます。
数ある食の選択肢から何を選ぶのか、未来のことを考える姿勢が私たちに問われています。