
- 食料問題・地球環境
- 2022.01.17
低すぎる日本の食料自給率の現状と今私たちにできること
日本の「食料自給率」が何%かご存知でしょうか。農林水産省の発表によれば、2020年度(令和2年度)の日本の食料自給率はカロリーベースで37%。逆をいえば63%もの食べ物を輸入に頼っていることになります。なぜこのような状況になっているのか、また食料自給率を引き上げるためにできることについて一緒に考えてみましょう。
INDEX
- 食料自給率とは?
- 日本の食料自給率は37%で世界的に低い
- 日本の食料自給率が低い理由
- 1.欧米化でパンと肉食が圧倒的に増えたから
- 2.農業への労働力不足
- 3.食品ロス分も含まれているから
- 海外からの食料に頼りきることのデメリット
- 1.非常時に、食料価格の高騰などで悩まされる
- 2.世界の人口増により、国内への食料供給が減少する恐れも
- <行政・企業編>食料自給率アップのための取り組み
- 1.麦や大豆の生産へ転換などの支援
- 2.国内産の食材への切り替え
- 3.「スマート農業」による省力化・収量アップ
- <消費者編>食料自給率アップのためにできること
- 1.国産品を買う
- 2.規格外・訳あり品を買う
- 3.手前どりを意識して購入する
- 食料自給率アップのために私たちにもできることはある
食料自給率とは?

食料自給率とは、私たちが食べる食料を自給している率(割合)のことで、日本の食料供給に対する国内生産の割合を示す指標です。なおここでいう食料とは、日本人が口にするすべての食べ物です。スーパーなどで売られている生鮮品や加工品、外食に使用される食材、輸入される加工食品・お菓子・ジュース類など、日本に流通しているすべての食料が食料自給率算出の対象となっています。
食料自給率の示し方には、重量を基に算出する「品目別自給率」と、食料全体について共通の「ものさし」で単位を揃えることにより算出する「総合食料自給率」の2種類があり、このうち総合食料自給率は、熱量で換算する「カロリーベース」と金額で換算する「生産額ベース」があります。
日本の食料自給率は37%で世界的に低い

農林水産省の発表によれば、2020年度(令和2年度)の日本の食料自給率はカロリーベースによる試算で37%。過去最低を記録した2018年と同水準で、再び下がってしまいました。
かつて日本の食料自給率は今よりも大幅に高く、戦後直後では88%もありました(1946年度)。しかし、1965年度に73%の水準を記録して以降緩やかに下がり、2000年度以降は40%前後でほぼ横ばいに推移しています※。
※農林水産省「日本の食料自給率」(2020年)
日本の食料自給率が低い理由

日本の食料自給率が低い一方で、アメリカやフランスの食料自給率は100%をゆうに超えています。カナダやオーストラリアに至っては200%以上※。日本の食料自給率はなぜこれほどまでに低いのか、理由を解説します。
※農林水産省「世界の食料自給率」(2018年)
1.欧米化でパンと肉食が圧倒的に増えたから

かつて日本人の主食はお米が中心でしたが、戦後の復興に伴い食生活が欧米化し、お米の消費は減っていきました。一方で肉やパンの需要が急激に増えましたが、国内生産では賄いきれず、輸入に頼らざるを得ませんでした。このことが食料自給率を下げた要因の一つと考えられています。
現在日本の牛肉の食料自給率は35%、豚肉は49%、鶏肉は64%です(※品目別自給率で換算)。ここ数年で豚肉と鶏肉はわずかながら上昇傾向にありますが、牛肉は下がっており、平成29年度以降は50%を割り込み続けています※1。
また、総務省統計局の「家計調査」によると、1世帯当たりのパンの支出額が米の支出額を10年間以上連続で上回っている※2という事実もあり、私たちの食卓は輸入によって支えられているといえるのです。
※1…独立行政法人 畜産業振興機構「畜産」(2019年)
※2…総務省統計局「家計調査」
2.農業への労働力不足

農地が住宅地に変わったり、会社に勤める若者が増えて農業を仕事にする人の数が減ったりしていることから、農業の後継者不足が深刻化しています。農業の担い手が減るということは、農作物の生産量も減るということ。よって食料自給率の低下にもつながります。
また農業従事者の平均年齢が67.8歳※と、高齢化による労働力不足も課題となっています。
※農林水産省統計部「農林業センサス、農業構造動態調査」(2020年)
3.食品ロス分も含まれているから
日本で採用されている食料自給率の示し方は、「カロリーベース」の総合食料自給率です。この示し方には、食べられずに廃棄された食料も分母に含まれるため、年間約570万tにものぼる食品ロスを出している日本の食料自給率は必然的に低くなります。よって、国内での生産に注力するより、食品ロスを削減した方が食料自給率のアップにつながるとも考えられています。
世界基準の「生産額ベース」でみると、日本は67%です。海外諸国は100%前後なので、カロリーベース・生産額ベースで比較しても日本は共に低い水準にあります。しかし国産野菜の生産額ベースの割合は77%(2018年度)もあることから、品目別で食料自給率をみると、すべてが低いとは限らないことが分かります。全体の食料自給率が100%を超えていても、特定の品目については輸入に頼るというケースも少なくありません※。
※農林水産省「日本の食料自給率」
海外からの食料に頼りきることのデメリット

では、このまま輸入に依存し続けるとどうなるのでしょうか。デメリットを以下解説します。
1.非常時に、食料価格の高騰などで悩まされる
過去日本では、飢饉と呼ばれる不作による飢餓が何度も起きました。最近では、干ばつや異常気象などにより輸出国の穀物生産量が減少しており、国際価格の高騰も頻発しています。国によっては国内への供給を優先するため輸出を禁じる措置をとることもあり、日本が輸入している国がこの措置をとると、私たちは非常に乏しい食生活を送ることになります。
つまり私たち日本人の食の豊かさは、世界の食料事情に大きく左右されるということです。このまま安定的な輸入が未来永劫続くとは限りませんし、いつ輸入できなくなるのか予想もできません。そのような事態に備えるためにも生産基盤を確保、維持し、日頃から食料自給率を上げていくことが重要となるでしょう。
2.世界の人口増により、国内への食料供給が減少する恐れも
世界の人口は今なお増加し続けており、2050年には100億人を超えるという国連の試算もあります※。人口が増えればその分食料の需要も増えることが予想されます。しかし、世界の農地面積には限りがあり、日本においても同様です。将来に渡って日本への供給が現在のようにあるとは限らないのです。
※国際連合広報センター「世界人口推計2019年版:要旨 10の主要な調査結果(日本語訳)」
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<行政・企業編>食料自給率アップのための取り組み

生産額ベースでもカロリーベースでも、自給率の低い日本。行政や企業はどんな取り組みをしているのでしょうか。
1.麦や大豆の生産へ転換などの支援
農林水産省では、食料自給率を上げるために以下のような支援を行っています。
・需要の低い米から、自給率の低い麦や大豆などに生産を転換するための支援
・将来にわたり農業を続けていけるための、品目ごとの支援
・効率的&低コストで生産するための、新しい技術の導入の支援
・生産基盤である農地や農業の担い手を確保していくための支援
・輸出の拡大に向け、海外で日本の農産物をPRするための支援
食料自給率アップは、新たな国民運動になりつつあります。
2.国内産の食材への切り替え
日本の小麦の自給率は約12%※と低く、なかでもパン用の小麦はさらに低いといわれており、そのほとんどを輸入に頼っています。しかし大手パンメーカーの多くは、小麦の自給率低下という課題解決に貢献するため国産小麦を使ったパンを主流に商品を販売しており、米粉パン生産拠点を増やしている企業もあります。
※農林水産省「日本の食料自給率」
3.「スマート農業」による省力化・収量アップ
農地面積に限りがあるなか農産物の生産量を上げるための策としては、AIを使ったスマート農業の展開や建築物の階層を利用した垂直農業などが良い方法として知られています。
AIを農業に用いれば、高齢化による人手不足の解消や耕作放棄地の活用が期待できます。また垂直農業は都市でも農産物の生産を可能とし、水や光などのエネルギーも最小限に抑えることができるので、人口増加に伴う食料不足を解決する有効な方法になると考えられています。
<消費者編>食料自給率アップのためにできること

1.国産品を買う
食材を買う時は、産地を見て国産を選ぶようにしましょう。一人ひとりが地元で採れた食料を食べる「地産地消」を心がけると地域の農業も活性化し、食料自給率のアップにつながります。普段食べる肉や豆腐、納豆などの産地を今一度確認してみてください。
パンは、輸入の小麦のパンではなく「国産米粉パン」や「国産の小麦パン」を買いましょう。お米は自給率100%です。卵・野菜・きのこ・芋類の食料自給率も高いので、これらを意識的に買いましょう。
2.規格外・訳あり品を買う
食品ロスを減らすことは自給率アップにつながるので、食品ロスとして廃棄される規格外・訳あり品を買うことも自給率アップに効果的な方法です。
全国的な天候不順などにより、規格外の農産物が増加傾向にあります。規格外の農産物は見た目が悪いため売り物にはなりませんが、品質には問題ありません。スーパーでは捨てられてしまうことも多い規格外の農産物ですが、訳あり品として安く売り出している場合もあります。最近では規格外の農産物を扱う八百屋もあるので、そういったところから購入してみましょう。
農家や市場に行けば、鮮度のいいものが安く買えることもあります。ネットでも購入しやすくなっているので、是非利用してみてください。
3.手前どりを意識して購入する

手前どりとは、商品棚の手前にある商品から取ることです。販売期限の迫った商品から取ることで、販売期限が過ぎ廃棄されることによって発生する食品ロスの削減につながります。
家庭では食べ残しを減らしたり、セール品の買い込みで廃棄を多く発生させたりしない努力が必要です。
食料自給率アップのために私たちにもできることはある

食料自給率を上げるためには、国産品を買ったり食品ロスを減らしたりするなど、私たち一人ひとりの小さな積み重ねが必要です。食材を買う際は、安さや見た目の良さだけで買わないようにしましょう。それが日本の、そしてあなたの未来を創ります。