HACCP(ハサップ)による衛生管理について詳しく解説

HACCP(ハサップ)による衛生管理について詳しく解説

FOLLOW US!

2018年6月「食品衛生法」の改正法案が可決され、2021年6月から、HACCPの導入・運用が完全義務化されました。HACCPは製品への危険物質の混入に対し、作業過程を整理・分析・管理することでそのリスクを減らすためのものです。ここでは、HACCPの基本情報や従来の検査との違いなどについて詳しく解説します。

INDEX

HACCPとは?

HACCP(ハサップ)とは、食品における衛生管理の手法のことで、Hazard(危害)・Analysis(分析)・Critical(重要)・Control(管理)・Point(点)の5つの単語の頭文字から成ります。なお、これら5つの単語のうち、前の2つを合わせて「危害分析」、後の3つを合わせて「重要管理点」という言葉が成り、それぞれ消費者に安全な食品を届けるためには欠かせない観点です。

HAの危害分析は、食品に有害な微生物や化学物質、金属などの異物が、原材料の仕入れや出荷、および製造過程で食品中に混入・増殖することで発生しうる危害(健康への悪影響)を予測し、これら危害要因を管理する方法を明確にし、ルール化することです。

CCPの重要管理点は、HA(危害要因分析)に基づき製造・加工工程を管理し、食品中の危害要因を健康を損なわない程度にまで確実に減少・除去することです。

HACCPでは、食品の製造に必要な原材料の搬入・製造・梱包・出荷までの全工程を細分化しています。その上で、製造過程で生じうる食品汚染の危害要因を分析し、それを回避するために科学的根拠に基づいた衛生管理を行います。

食品の製造における全工程の衛生管理が隅々まで監視されるHACCPにより、私たち消費者には安全性の高い食品が届けられています。

HACCP義務化の背景

HACCPの原点は、アメリカのアポロ計画において宇宙食の安全性を確保するために発案された衛生管理の手法です。その後、食品業界に評価されたことをきっかけに次第に世界に広がり、今では衛生管理の国際的な手法となりました。

さまざまな手法がある衛生管理の中でも、主に従来行われていたのは「抜き取り調査」です。抜き取り調査とは、出荷前の製品をランダムに抜き取り品質を検査する手法です。汚染があった場合は出荷を中止することで、汚染食品の流通を防ぎます。 しかし、抜き取り検査はランダムに抜き取られた製品だけが検査の対象となるため、汚染のある製品が調査をすり抜け流通してしまう恐れがありました。

これを踏まえて発案されたHACCPは、原料の仕入れから出荷まで、すべての工程において衛生管理が適切に行われているかを監視・記録します。よって、管理基準に満たない状況で製造された場合は出荷を中止したり、汚染が生じた場合は問題点の追跡を迅速にしたりすることが可能となりました。

HACCPが導入されるまで、日本では従来の抜き取り調査が行われていました。しかし食の安全性が叫ばれるようになった昨今では、HACCPは消費者のニーズに沿った衛生管理の手法として導入が進んでいます。HACCPを義務化する国も年々増加しており、HACCPによる衛生管理のもと食品を輸出することも求められています。このような背景を踏まえ日本でも、2021年6月に導入が義務化されました。

世界ではどのくらい導入されているの?

米国やカナダでは、水産食品や食肉を中心とした食品の一部においてHACCPが義務化されています。またEUにおいても同様に、水産食品や食肉製品などの製造施設にHACCPの導入を義務化しています。東南アジア諸国などは、輸出用食品を製造する施設においてHACCPシステムを導入する国も増えています。

このように、多くの国々が衛生管理方式としてHACCPシステムを導入しています。HACCPは世界共通の食品衛生管理手法として、今後も導入が期待されるでしょう。

HACCP認証が必要な国・地域と対象食品

日本から食品を輸出するには、輸出先の国が求めるHACCPに則ることが求められます。HACCP認証の対象食品である肉や水産物の輸出国は、以下の通りです。

牛肉…米国・カナダ・香港・シンガポール・EU・メキシコ・ニュージーランド・フィリピン・台湾・マレーシア・インドネシア・ブラジル
豚肉…シンガポール
水産物…米国・EU・ブラジル
水産加工品…米国・EU・ブラジル
二枚貝…ニュージーランド

日本での導入状況は?

日本では2021年に義務化されたHACCPですが、全ての業者に対し一律に義務化されるわけではありません。衛生管理のレベルは、業者の規模や業種によって異なります。

流通規模の大きな企業や、より安全性が求められる屠畜や食肉解体の事業所においては、国際基準に則ったHACCPの導入が求められます。一方、小規模の業者では、一般的な衛生管理を基本としながら、できる限りHACCPに準ずる危害要因の分析と衛生管理を行うことが求められます。

業者の規模に応じた衛生管理の基準が適応されたとしても、HACCPの導入には、製造工程を詳しく分析する必要があります。導入前は入念な準備が必要となるでしょう。

HACCPを導入するメリット

製造の全工程を監視でき、食品の安全性を確保できるHACCP。導入することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。

安全性の向上

厚生労働省は、以下をHACCPの導入のメリットとして紹介しています。

社員の衛生管理に対する意識が向上した:78.2%
社外に対して自社の衛生管理について根拠を持ってアピールできるようになった:43.1%
製品に不具合が生じた場合の対応が迅速に行えるようになった:37.7%
クレーム・事故が減少した:32.3%
HACCPを求める事業者(小売業者等)との取引先が増えた:9.7%
生産効率が上がった:9.0%

HACCPの普及により、より安全性の高い食品の生産性を高めることができるだけでなく、社員の意識や事故の対応にも良い変化をもたらしていることが分かります。

HACCPによる食品の製造・加工・調理などの衛生管理は、コーデックス(国際的な食品規格)によりガイドラインが示され、国・地方自治体・民間の機関などが普及に取り組んできました。一方欧米諸国では、HACCPに基づく衛生管理の制度化が進んでいます。このような状況を踏まえ、日本においても従来の衛生管理の基準を見直し、HACCPの制度化を進め、食品の安全性をより向上していくことが求められています。

HACCPを導入するにはどこから手をつければいい?

HACCPの導入において  「どこから手をつけて良いかわからない」「書類作りに時間がかかる」「人材の育成が急務」といった課題を抱える企業も多い現状にあります。

厚生労働省のホームページには、中小規模の食品製造事業者がHACCPに取り組むきっかけとなるように作成された手引書があります。ステップごとに、そしてイラスト入りで分かりやすくまとめられているので、HACCPの導入に悩む企業は、これを参考に導入について理解すると良いでしょう。

HACCP認証を示すマークもある

厚生労働大臣により承認されたHACCPシステムにより衛生管理が行われている工場などで製造された食品につけられるHACCPの認証マークがあります。現在、HACCP承認品目に定められている食品は、食肉製品・乳及び乳製品・アイスクリーム・容器包装加圧加熱殺菌食品(レトルト食品)・魚肉練り製品・清涼飲料水などがあります。

食品の安全性の向上を目指す企業の取り組みを外部機関が認証した認証マークもあり、デザインは自治体によってさまざま。企業は認証マークを製品のパッケージに印刷したり、 ホームページやパンフレット、店頭などでアピールしたりし、消費者に取り組みや安全性を発信することができます。

基準をクリアした安全な食品を選ぼう

食品の安全性を高め、汚染事故などを最小限に抑えることができるHACCPは、2021年に義務化されたものの、全ての業者に一律に義務化されているわけではありません。業者の規模や業種によって求められる衛生管理のレベルは異なっており、その実態はさまざま。だからこそ私たち消費者は、HACCPを認証していることが明示されている食品を積極的に選びたいものです。とくに新ジャンルの食べ物を選ぶときには、HACCP認証を確認するとより安心でしょう。

31 件

SHARE