
- コオロギ・昆虫食
- 2022.05.12
【食品科学者が解説】タンパク質、食感、共食力・・・コオロギの多様な魅力
タンパク質を豊富に含むコオロギ。“健康に良さそうだから”と昆虫食(コオロギ食)に興味を持っている方もいるでしょう。もちろん栄養素はコオロギの大きな魅力です。しかし、栄養素と並び“食感”や“良好なコミュニケーションのツール”といった魅力があるのをご存知でしょうか?
今回は昆虫食の研究にも取り組まれていた、宮城大学食産業学群教授の石川 伸一(いしかわ しんいち)先生にグリラスマガジン編集部がインタビュー。コオロギの魅力や可能性について多様な切り口からお話を伺いました。
石川 伸一先生プロフィール

1973年生まれ。東北大学大学院農学研究科修了。日本学術振興会特別研究員、北里大学助手・講師、カナダ・ゲルフ大学客員研究員(日本学術振興会海外特別研究員)などを経て、現在、宮城大学食産業学群教授。専門は、分子調理学。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、『「食べること」の進化史』(光文社)、『分子調理の日本食』(オライリー・ジャパン)などがある。関心は、食の「アート×サイエンス×デザイン×テクノロジー」。
コオロギの栄養素の最大の魅力はタンパク質

“食べた栄養素は体にどのような影響を及ぼすのか”といった栄養学の疑問を、分子レベルで研究をされている石川先生。そんな石川先生にコオロギの栄養素の魅力をお尋ねしたところ、「最大の魅力は、やはりタンパク質ですね。」というお答えをいただきました。
「タンパク質は筋肉や臓器、皮膚、髪の毛、爪、歯などを形成する、人が生きていく上で必要不可欠な栄養素です。1日のタンパク質摂取量は成人男性で65g、成人女性は50gが推奨されていますが、とくにダイエット中で食事量を抑えている方などは、タンパク質が不足しがちです。コオロギのタンパク質量はニワトリの約3倍ということですから、手軽にかつサプリメントなどではなく天然の食材からタンパク質を摂取したいという方にとっては強い味方になってくれますね。」

コオロギを粉末にしたコオロギパウダーの栄養素の一部。ビタミンやミネラル、食物繊維など豊富な栄養が含まれている。
タンパク質以外の栄養素の魅力についても質問したところ、「カルシウムや鉄分など、日本人が不足しがちな栄養素が含まれている点も良いですね。カルシウム不足は骨粗しょう症や高血圧、動脈硬化などを招くリスクが指摘されています。
また鉄分も不足すると、貧血や運動機能及び認知機能などの低下に繋がる恐れがあります。月経中の女性や、妊娠中で赤ちゃんの成長に伴い血液量が増える妊婦さんはとくに鉄分の摂取には気をつけたいところですね。」と話していただきました。
「コオロギ特有の成分による健康機能についても今後、研究によって判明するかもしれませんので、期待したいですね。」
コオロギの可能性は食感の“不均一性”にあり!?

コオロギの栄養素以外の魅力について、石川先生はどのようにお考えなのでしょうか。
「個人的には“食感”も魅力だと思っています。コオロギを含め昆虫は脚や胴体、翅(はね)など食べる部位によって食感が全然違いますよね。部位によって固さも違い、口の中での砕け方も異なり、刻々と食感が変わっていきます。身体には細かい空洞もあるので、うまく調理すればパリパリな食感にもなります。」
複雑な構造を持つコオロギを“食感”という切り口で楽しむ観点もあるのかと、編集部一同驚きました。
「お米が主食としてなぜ食べ飽きないのか。その理由の一つが“食感の不均一性”と言われています。お米も米粒の一粒一粒を調べてみるとどれも形が違っていて、粒単位で食感が異なります。だからお米は飽きが来ないと言われているんですね。コオロギなんてまさに身体のさまざまな部位に不均一性を持っていますから、人間が食べ飽きずに長く食べ続けられるポテンシャルを秘めた食材だと考えています。」

コオロギは「陸のエビ」とも言われ、エビのような香ばしい風味がします。興味のある方はコオロギ自体の食感を楽しむことにもチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
昆虫食は良好なコミュニケーションツール!

「昆虫食はコミュニケーションツールとしても需要がある。」と石川先生。
そんなコミュニケーションツールとしての昆虫食は、石川先生の著書『「食べること」の進化史 培養肉・昆虫食・3Dフードプリンタ(光文社新書)』でも言及されている、誰かと一緒に食事をとること=共食の力を上げてくれる効果を持つと言います。
また共食の重要性について、石川先生は同書にて以下のように述べています。
共食は、人間が社会生活を営む際のコミュニケーションにおいて、大事な役割を果たしてきたといえるでしょう。
たしかに私たちは普段、コミュニケーションの場としても食事の場を利用していますよね。そして、しばしば食べる料理のメニューや美味しさが、コミュニケーションにも影響を与えます。昆虫食はコミュニケーションを活発化させ、共食の力を上げてくれる、と石川先生は話します。
「コオロギでもタガメでも、昆虫食全般は共食力の高い食材だと思います。昆虫食を食べたら、誰かに話したいという欲求が生まれますよね。また聞き手としてもどのような味だったのか、知りたいと思う。コミュニケーションツールとしても昆虫食は優秀なのではないでしょうか。」
焼き鳥屋ならぬ「焼き虫屋」もあると面白い

「将来、焼き鳥屋ならぬ焼き虫屋のようなお店があれば面白いなと思いますね。個人的に食の理想は、『自分が食べたいものを自由に選択して食べられる世界』なのかなと思います。コオロギだけでなく多様な昆虫を、食べたい人が手軽にアクセスして食べられるユートピアが訪れたら素敵ですね。」と昆虫食の未来についても、石川先生は期待を込めて話していました。
しかし、バラエティ番組などの影響もあってか、昆虫食=ゲテモノというイメージを持つ方も一定数いるのが現状です。
「コオロギ含め昆虫は、食べてみると『あっ、昆虫って美味しいんだ』と気付くはず。一方、人はイメージで食を選ぶという側面もあるため、人によっては昆虫を食べるハードルは高いかもしれません。ただ栄養素以外にも、“食材としての美味しさ”や“食感の不均一性”など昆虫を食べた人だけが辿り着ける、昆虫食の魅力は確実にあります。興味のある方はぜひ昆虫食の新しい世界に踏み込んでみてはいかがでしょうか。」
今回はコオロギの魅力を栄養素や食感など、多様な観点から石川先生に話していただきました。とくに“昆虫は食感が魅力”という視点は新鮮だと感じた方も少なくないのではないでしょうか。
ただ「そうは言ってもいきなりコオロギそのものを食べるのは...」という方もいるでしょう。株式会社グリラスではクッキーやクランチ、カレーなどにコオロギを使用し、コオロギを誰でも気軽に食べられるように工夫した商品や、いつもの食事にも使えるコオロギパウダーも販売しています。これらの商品を食べて、深淵なる昆虫食の世界への第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
参考文献
石川 伸一著(2019)「食べること」の進化史 培養肉・昆虫食・3Dフードプリンタ(光文社新書)