【コオロギの専門家が解説!】コオロギの鳴き声の種類と、その深いワケ?

【コオロギの専門家が解説!】コオロギの鳴き声の種類と、その深いワケ?

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日本の秋の風物詩として親しまれるコオロギの鳴き声。家の周りなどでコオロギの鳴き声を聴いて、秋を実感する方も多いのではないでしょうか?

今回はその美しい音色から秋の季語にもなっているコオロギの鳴き声を、そのパターンや戦略、音の鳴らす仕組みや聴く仕組みまで徹底解説します。

・鳴くのはオスだけ?

コオロギは交尾をして子孫を増やすために、様々な鳴き声を使い分けてコオロギ同士で交信します 。しかし、鳴くのはオスの成虫だけでメスには鳴くための翅(はね)はありません。

オスにだけ鳴くための翅がある理由はまだ明らかとなっていませんが、鳴くと自分の居場所がコオロギを食べる他の生物に察知されてしまうため、卵を産むメスは鳴かなくなったと考えられます。

・どんな時に鳴くの?

コオロギの鳴き声や鳴き方は、種類によって様々です。しかし、シチュエーションに応じて鳴き声を使い分けているのは、どの種類のコオロギでも同じです。

ここでは、グリラスで養殖しているフタホシコオロギを例に、鳴き声の違いを分紹介していきます 。
フタホシコオロギは、①誘引歌、②喧嘩歌、③求愛歌という、主に3種類の鳴き声を使い分けることが分かっています。

①誘引歌(ゆういんか)

他のフタホシコオロギ に自分の存在を示す鳴き声で、コオロギの性別にかかわらず呼び寄せることができます。メスは鳴き声の聞こえる方向を目指して進み、オスは音源に対して一定の距離を保ち、音源を目指して近づいてきたメスと交尾をするために待ち伏せをする個体もいます。

②喧嘩歌(けんかうた)

他のオスに対して威嚇や噛みつき合いをする時の鳴き声で、喧嘩の勝者は勝鬨(かちどき)をあげます。また、負けたオスは数時間鳴かなくなります。

③求愛歌(きゅうあいか)

呼び寄せたメスや近くにいるメスに対し、交尾をする直前に発する鳴き声です。メスはその鳴き声を聞き、オスの良し悪しを判断すると考えられています。また、3種類の鳴き声の中で最も長さに多様性があります。

性別の判別は触覚により行われていて、触覚で触れた個体がオスだと喧嘩歌、メスだと求愛歌を鳴き始めます。コオロギは体表の化学成分が性別で異なり、触覚で触れることで性別の判別がつきます。

・鳴くことで何がおこるの?(メリットとデメリット)

メリット

配偶者の居場所を特定することが容易となることから、繁殖の確率が上がります。

また、オス同士が接触した場合は喧嘩歌のみで喧嘩が終了し、噛み付き合いによって身体が損傷するのを避けることができます。しかし、喧嘩歌の鳴き合いだけでは収まらず、噛み付き合いに発展する場合も多くあります。

デメリット

コオロギを餌とする捕食者(トカゲやカエル、コウモリなど)や寄生者(寄生バエ)といった天敵との遭遇や、他のオスにメスを横取りされてしまう危険性が生まれます。

この寄生バエは、コオロギの鳴き声を用いて宿主を見つけることが出来るため、沢山鳴くオスの方が、あまり鳴かないオスや鳴けないメスよりも寄生される確率が高くなることが知られています。

またコオロギの中には、自身は鳴かずに鳴いているオスの周りに紛れて、メスを横取りする個体がいることが知られています。生物学ではこういった横取り行為のことをスニーキングといい、横取りする個体をスニーカーと言います。そして、積極的に鳴く個体とスニーカーとでは、前者の方が多くの子孫を残す確率が高いことが知られています。

・音の鳴る仕組み

コオロギの鳴き声は主に3種類あり、音の長さ(リズム)や高さ(周波数)に違いがあります。

そしてその鳴き声は、左右の前翅を擦り合わせることによって生成されます。これは楽器のギロと似ており、ギザギザのモノを擦り合わせて音を出す仕組みです。

左の翅(はね)にある摩擦器(まさつき、Plectrum) を、右翅にあるヤスリ器(file)に擦り付けることで振動を発生させることが基本的な原理です。右の翅は左の翅の上にあります。

さらにコオロギの翅には、右にも左にも、「ハープ(harp)」と「ミラー(mirror)」という器官が存在します。
ハープとミラーはそれぞれ、擦り合わせてでた振動を増幅し、音へと変換する役割があると考えられています。

ハープは、優位周波数(dominant frequency : ある音を構成している沢山の周波数の中で、最も成分が多い周波数のこと)と関係し、大きなハープを持つ個体は、優位周波数が低くなると考えられています。  

一方でミラーは、擦り合わせて出た音を増幅させると考えられています。

左右の翅は人間の目には同じ様に見えますが、左翅のハープは右の翅よりも大きく、左右のそれぞれから鳴る一番低い音が異なると考えられています。  

彼らは、2枚の前翅の擦り合わせる速度や長さ、角度をコントロールすることで、多様な音色の鳴き声を発します。

ハープ(水色)とミラー(ピンク)※どちらも右側のみ色付け

・音を聴く仕組

コオロギは、音を用いて交信を行うため、聴覚器官(人でいう耳)をもっています。そしてコオロギには、役割が異なる3つの聴覚器官があります。

1つ目が、左右の前脚の脛(すね)の位置にある鼓膜です。米粒のような色や形をしており、主に他のコオロギの鳴き声やコウモリの超音波に反応すると考えられています。

また最近の研究から、コオロギは人間と同じ様な原理で音を聞いていると考えられています。

2つ目は、腹部の先端にある尾葉(びよう)とよばれる器官です。尾葉は、空気の流れを感じとることができます。これによってコウモリなどの天敵が近寄って来た際に危機を感じ取ります。

厳密には人間の感じる「音」とは異なるかもしれませんが、コオロギは気流も「音」として感じているかもしれません。

3つ目は、部に存在する聴覚気門(ちょうかくきもん、Acoustic spiracle) です。気門というのは、昆虫が呼吸に用いている器官です。聴覚気門は白い玉のような見た目をしており、種類によっては聴覚気門を開閉できると言われています。

この聴覚気門の役割は明らかとなっていませんが、聴覚気門を塞がれたコオロギは、正常に音源の把握ができなくなることから、音を特定するために重要な器官であること考えることができます。

鼓膜

尾葉

聴覚気門

・鳴かないコオロギ

鳴き声はコオロギのコミュニケーションにおいて重要な役割を果たしますが、中には様々な理由から鳴かなくなった種類も存在します。

①翅のないコオロギ

まずは、翅が消失してしまったコオロギです。海岸の岸壁に生息するウミコオロギは、翅そのものがありません。

海岸沿いでは翅をもちいて飛ぶと着陸地点がなく、そのまま海に落ちて死んでしまいます。そのため翅がない個体だけが子孫を残すことができ、今の形に進化したと考えられます。

②翅はあるけれど鳴かないコオロギ

ハワイ諸島にはコオロギを寄主とする寄生バエが生息しています。寄生バエに寄生されたコオロギは、臓器を食い荒らされ、やがて死んでしまいます。

ハワイ諸島では鳴くと寄生バエに寄生されてしまうため、音を出すための器官が小さい個体が生き残り、鳴かない(出そうとしても音が出ない)コオロギが増えたということが知られています。

しかしコオロギは、鳴かなければコオロギ同士のコミュニケーションを積極的に取ることができません。そこで、ハワイ諸島には鳴ける(音が出る)オスが少ないながらも存在しており、その数少ない鳴けるオスがメスを引き寄せることが知られています。

そして、鳴かない翅を持つオスは鳴けるオスに便乗し、引き寄せられたメスを待ち伏せして、鳴けるオスよりも先に交尾をすることが知られています。

・まとめ

いかがでしたか?コオロギにとって鳴き声は、他のコオロギとコミュニケーションを取るための手段であり、様々な方法で音を感じ取っているとわかりました。

もし今後コオロギの鳴き声を耳にしたときは、ここで得た知識を思い出してもらえたら嬉しいです!

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