
- コオロギ・昆虫食
- 2022.03.14
宇宙食にはどんな種類があるの? 宇宙で自給できる食材もあるって本当?
宇宙飛行士が宇宙空間で食事をする様子をテレビで見たことがある人もいるのではないでしょうか。宇宙食の中には、地上で販売されているものもあり、身近なものとなりつつあります。無重力空間での食事になりえる条件や、宇宙食の移り変わり、そして、未来の宇宙食についても探っていきます。
宇宙食とは?

宇宙食は、国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在する宇宙飛行士に提供される食品です。
宇宙食に選ばれるは、宇宙という地上とは全く異なる環境で食べられるため、私たちが普段食べる食品よりも厳しい条件が求められます。宇宙飛行士の健康を維持するための栄養が含まれていることはもちろん、高い衛生性や保存性、調理設備が限られていても美味しく食べられること、宇宙の微小重力環境で飛び散らない食品や容器の形状など、宇宙飛行士が安全かつ快適に食べられるよう、さまざまな工夫がなされています。
ISSに供給される宇宙食は当初、米国とロシアの宇宙食のみでした。しかし、ISS宇宙食供給の基準文書「ISS FOOD PLAN」が整備されたことで、日本を含むISS計画の国際パートナー各国による宇宙食の供給も可能となりました。
宇宙食は健康維持やストレス低減などの役割がある

宇宙食の役割は、宇宙飛行士の健康維持を始め、メニュー豊富な美味しい食事を摂ることによる精神的ストレスの解消・気分のリフレッシュ・パフォーマンスの維持および向上などです。
宇宙に長期滞在する宇宙飛行士が1日に必要とするカロリーは、宇宙飛行士の年代・性別・体重から算出されます※。
男性 | 女性 | |
---|---|---|
18~30歳 | 1.7×(15.3×体重(kg)+679)(kcal) | 1.6×(14.7×体重(kg)+496)(kcal) |
30~60歳 | 1.7×(11.6×体重(kg)+879)(kcal) | 1.6×(8.7×体重(kg)+829)(kcal) |
たとえば、50歳で体重75kgの男性であれば2,973カロリー、35歳で体重55kgの女性であれば2,087カロリーになり、地上で必要とされる1日のカロリーとほぼ同じ数字です。なお、船外活動を行う場合は500カロリーがプラスされます。
※…国際宇宙ステーション(ISS)宇宙食供給の基準文書「ISS FOOD PLAN」の規定による
宇宙食の条件とは?

宇宙食を提供するには、さまざまな条件を満たさなければなりません。宇宙食に求められる主な条件として、JAXAは以下のように明記しています。
1.安全であること
容器や包装が燃えにくいこと
容器や包装が燃えた場合でも、人体に有害なガスが発生しないこと
容器や包装による事故を防ぎ、安全性を確保します。
2.長期保存が可能であること
常温で少なくとも1年半の賞味期限を有すること
宇宙空間の設備には限りがあるため、宇宙食は保存性の高いものが求められます。
3.衛生性が高いこと
宇宙飛行士の食中毒などを予防するための衛生性を確保する(食品内の細菌の種類や数などを基準以下とする)こと
4.食べる時に危険要因が発生しないこと
電気系への障害防止
液体を含む食品は飛び散らないよう、食品を封入するパッケージに付属したスパウト(吸口)やストローを使用する
そのまま食べる食品については飛び散らないよう粘度を高め、ゾル状食品(とろみのある食品)とする
空気清浄度への障害防止
微粉を出さないこと
特異な臭気を発するものは適さない
宇宙空間は無重力なので、食材が四方八方に飛び散ってしまいます。浮遊した食べカスが精密機械に付着すると、故障の原因になってしまいます。
そこで、液体は粘度を高くしたり、塩やこしょうなど粉末タイプの調味料は液体にしたりと、食材がバラバラに飛び散らないよう加工されています。宇宙飛行士が安全かつ快適に食べられるよう、さまざまな障害に配慮することが求められています。
代表的な宇宙食とは?

宇宙食には、以下の種類があります。
加水食品
水やお湯で戻して食べる食品で、プラスチック容器に入っています。フリーズドライ製法やスプレードライ製法などで作られており、スープ・ご飯類・スクランブルエッグ・シュリンプカクテル・粉末飲料(お茶やジュース)があります。
温度安定化食品
常温保存が可能な、レトルト食品や缶詰などの食品です。開封してそのまま食べられることはもちろん、ISSでは調理設備にある専用のフードウォーマーで温めることもできます。宇宙食として提供されている温度安定化食品には、肉料理(ステーキ・チキン・ハムなど)や魚料理(ツナ・イワシなど)のほかに、果物やプリンなどがあります。
自然形態食品・半乾燥食品
加温せず、そのまま食べられる加工食品です。お菓子類(ナッツ・クッキー・キャンディーなど)や、ドライフルーツ、ビーフジャーキーなどがあります。
調味料
地上で使われているものと同様の、食品に味付けをするための調味料です。塩・こしょう・ケチャップ・マスタード・マヨネーズなど。ただし、粉末状の塩とこしょうは、飛び散らないよう、液状に加工されています。その他にも、チリソース・タバスコ・宇宙日本食の野菜ソースなどがあります。
生鮮食品
新鮮な果物(オレンジ・リンゴ・グレープフルーツなど)や、生野菜(キュウリ・プチトマト・玉ねぎなど)、パン、トルティーヤなどがあります。賞味期間が限られているので、傷まないうちに早めに食べます。
放射線照射食品
放射線照射により殺菌処理が施された食品で、ビーフステーキなどがあります。放射線照射は、殺菌処理により賞味期間を長くすることを目的としています。
人類の宇宙進出が始まった頃の宇宙食は、一口サイズの固形のものや、練り歯磨きのようなチューブに入ったゼリー状のものばかりでした。配合されていた栄養素も必要なものだけだったため、どれも味気がなく宇宙飛行士たちには不評でした。
技術が進歩した現在では、地上の食品と同等レベルの、バラエティ豊かな宇宙食が数多く登場しています。宇宙飛行士にとっても一つの楽しみであるとともに、健康維持にも欠かせない重要なアイテムとなっています。
日本で開発されている宇宙食

国際宇宙ステーション(ISS)計画が開始されてからは、国際パートナーの一員である欧州宇宙機関(ESA)も、ISSに独自の宇宙食を提供しています。日本でも宇宙食の提供を開始し、下記のような宇宙食が供給されました。
1.白米やおにぎり
炊き上がったお米から水分だけを抜き、旨味はそのまま保った状態のお米「アルファ米」の白飯です。お湯で戻して食べます。宇宙において水は70度で沸騰しますが、低温でも美味しい白飯になるよう加工されています。その他にも、おむすびにした赤飯などがあります。
2.カップ麺
カップ麺は、低重力の宇宙ステーション内でも飛び散らないよう、スープの粘度が高められています。地上で流通しているカップ麵とは異なり、70度のお湯で戻すよう加工されています。また麺が一本一本バラバラにならないよう、一口サイズの塊になっています。
3.コンビニの唐揚げ
コンビニで売られている唐揚げが宇宙食として改良され、実際に認証された例もあります。粉末が飛び散らないよう小さなサイズに加工されている点や、加温しなくても食べられる点が、地上の唐揚げと異なっています。
4.サバの味噌煮
日本食の家庭料理を代表するおかず、鯖の味噌煮の缶詰も宇宙食に認証されました。飛び散りを防ぐため、汁の粘度が高くなっています。高校生が開発した宇宙食の鯖缶も、一時話題となりました。
5.おやつ
おやつには、フリーズドライ製法でできた杏仁豆腐・プリン・アイス・たこやきなどがあります。おやつは、宇宙で一息入れるときに役立っているでしょう。
6.ちりめん山椒
ごはんのお供として活躍するちりめん山椒も、宇宙食として認定されています。ちりめんじゃこにはカルシウムが含まれているので、栄養の補助にも役立ちます。日本人宇宙飛行士にとってはなじみが深いでしょう。山椒の辛さと小魚の風味で、ごはんがどんどん進みます。
宇宙で自給できる食材として大注目の昆虫食

加工や保存の技術の進歩により宇宙食は種類こそ増えたものの、まだ十分なバリエーションとはいえない現状にあります。一度に輸送できる量に限りがある、生鮮食品の長期保存が難しいなど課題は山積み。これら宇宙の食問題を解決するべくJAXAと民間企業が連携し、月面基地での自給自足を目指すという共同プロジェクトを立ち上げました。さまざまな機関が集まり、条件が限られた宇宙環境でも食料の生産を可能とする技術の開発に取り組んでいます。例えば、生き物の細胞を培養しタンパク質を確保する培養肉の技術や、繁殖力の高い藻類を育てる農園、AIやドローンが効率的に植物栽培を行う施設も考案されています。これらの導入により、いずれは宇宙でも食料生産が可能になるでしょう。
一方で、スペースも資源も限られている宇宙船の中で、必要とする栄養分の摂取をいかに可能とするかという課題もあります。そこで今注目されているのが、昆虫食です。昆虫は、動物性タンパク質の摂取という点で非常に効率が良く、限られたスペースで大量に育てることができます。必要となる飼料や水も圧倒的に少なくて済み、成長が早いというのも強みです。
今までとは違う宇宙食の開発への期待が高まる

JAXAは2040年までに、月面基地で1,000人が生活することを目指し、2050年には火星への移住も視野に入れています※。今と同じ宇宙食が主流となるのか、あるいは地上のように宇宙空間でも料理ができるのか。今後の宇宙食の開発に注目したいところです。
※…「Space Food X」プロジェクト
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